めて團伊玖磨氏のエッセイを読んだのは、中学生の頃でありました。パイプのけむりシリーズであります。元々はアサヒグラフに連載されていたものだそうですけれども、私が読んだのは朝日文庫版。小遣いが許す範囲で買い求め、次々と読んでいった事を思い出します。
團伊玖磨氏は日本が世界に誇る作曲家であります。私はクラシック音楽には明るくないのでありますが、童謡「ぞうさん」の作曲者と聞くと親しみを覚えます。大の愛煙家で特にパイプ煙草を好んだ事から、エッセイ集の名を「パイプのけむり」にしたそう。氏の文章は鋭くキレがあり、発想も豊かです。当時中学生であった私は、こういうキレのある文章が書けるようになりたいものだと考え、氏の文体を敢えて模倣していた時期すらありました。氏のポジティブなモノの考え方にも大いに共感し、大人になったら氏のようなバリバリ働く大人になりたいたものだと思ったものです。
パイプのけむりの連載が始まったのは、私が産まれる前年の1964年、東京オリンピックの年。タクシーを円タク、中国を支那、国電を省線と称するなど、古い風俗や習慣や表現が随所に出て参りますが、氏の秀逸なる表現力所以でありましょうか、氏の生来のアグレッシブさ所以でありましょうか、今読み直してみても、根底に流れる心情に些かも古さを感じさせないのは流石としか云い様がありません。
連載は、アサヒグラフが廃刊となった2000年まで続いていたそうであります。約36年間、27巻に及ぶ膨大な随筆群。私が高校の頃までに出版された分は全て購入し、何度も何度も読み込みました。シリーズの前半をほぼ網羅した事になります。こうして蒐集した朝日文庫版パイプのけむりシリーズですが、大学進学、就職、結婚、転職などに伴う数々の引越でほとんど散逸させてしまったのは、今考えれば痛恨の極みでありました。
選集という形で出版された電子書籍版を最近読んでみました。選集は文字通り「話」「食」「旅」などの各テーマに従ってピックアップの上再構成されたもので、計3巻に過ぎませんので、当然、27巻分全体から見ればほんの一部の掲載でしかありません。しかし選集での再読をきっかけに、あらためて全体を一気に読み直してみたい誘惑に駆られました。ところが実は後に出版された新装版も含め、全て既に絶版となっており、手に入らない状態なのであります。選集以外の電子書籍版も存在しません。
古書店を探してみますと、古本と云うよりはコレクターズ価格という感じの値付けになっています。高価いのであります。程度の良いモノは一冊2~3千円と云ったところ。全27巻をきれいに揃えたら5万~8万円になってしまう計算です。ちょっとこれでは手が出ません。
勿論有名な随筆でありますから、公共図書館をあたれば置いてあるに違いないでしょう。でも私はこれを借りて読むのではなく、手元に置いていつでも読めるようにしておきたいのであります。あ~あ、散逸させたりせずに、もっとしっかりと管理しておけばよかった・・・。
パイプのけむりシリーズは、その題名の接頭語が特徴的な事で有名であります。以下に一覧形式で書き出してみる事に致します。
1. |
パイプのけむり |
2. |
続・パイプのけむり |
3. |
続々・パイプのけむり |
4. |
又・パイプのけむり |
5. |
又々・パイプのけむり |
6. |
まだ・パイプのけむり |
7. |
まだまだ・パイプのけむり |
8. |
もひとつ・パイプのけむり |
9. |
なお・パイプのけむり |
10. |
なおなお・パイプのけむり |
11. |
重ねて・パイプのけむり |
12. |
重ね重ね・パイプのけむり |
13. |
なおかつ・パイプのけむり |
14. |
またして・パイプのけむり |
15. |
さて・パイプのけむり |
16. |
さてさて・パイプのけむり |
17. |
ひねもす・パイプのけむり |
18. |
よもすがら・パイプのけむり |
19. |
明けても・パイプのけむり |
20. |
暮れても・パイプのけむり |
21. |
晴れても・パイプのけむり |
22. |
降っても・パイプのけむり |
23. |
さわやか・パイプのけむり |
24. |
じわじわ・パイプのけむり |
25. |
どっこい・パイプのけむり |
26. |
しっとり・パイプのけむり |
27. |
さよなら・パイプのけむり |
朝日新聞社の担当者の方にお願いであります。團伊玖磨著パイプのけむりシリーズ全27巻の再販を強く希望致します。出来れば愛蔵版の様な形式が望ましいですが、いえいえ贅沢など申しません。文庫形式でも、はたまた電子書籍のみでも我慢します。かなりの人が再販を待ち望んでいると思うのです。ご検討の程、何卒宜しくお願い申し上げます。
【つづく】
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