久保基地の玄関脇の庭木に、頻繁に鳥が行き来しているのをかみさんが見つけたのはゴールデンウィーク前の事。下から見上げてみると藁くずや小枝、蔓、はたまたビニール紐を使って作られた鳥の巣が見えます。下からの観察では限界がありましたので、二階の夫婦の寝室の窓から木を見下ろしてみたところ、直径20cm程のお椀型の鳥の巣がはっきりと確認出来ます。ただしこの時点では鳥の姿はなく、巣は空っぽの状態でありました。
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形も大きさもウズラの卵にそっくり |
「Yasちゃん!ちょっと、ちょっと!早く来てよ〜!」 ゴールデンウィークも終わりに近づいた頃の事であります。慌てて二階に上がると、かみさんは興奮状態で 「ねねねねね、卵々々!見て見て見て!!」 と足踏みしています。おお!先日まで空っぽだった鳥の巣に、可愛い卵があるではありませんか!形も大きさも、ちょうどウズラのモノくらい。巣に親鳥が居ませんから、どんな鳥なのかは判明しませんが、うちの庭木に巣を掛けたのも何かの縁。静かに見守って行く事に致しました。
何故こんな場所に巣を作ったのでありましょう。我が程久保基地の前の道は、狭いながらも多摩動物公園方面からの抜け道になっており、それなりに車通りがあります。庭木と云ってもその辺によくある針葉樹に過ぎないし・・・。程久保基地の周りには至る所に雑木林が残っており、わざわざこんなところに巣を掛けなくても、ちょっと奥に入ればもっと閑静な場所は幾らもあるのです。それにしても、二階の寝室の窓から巣が覗けるのはラッキーでありました。まるでナショナルジオグラフィックみたい!
それからというもの、朝、起きるやいなや寝室の窓を開け、巣を観察する毎日が始まりました。巣には枝葉が被さっており、全てが見える訳ではありませんが、卵はおそらく4個と思われます。体長25cm程の灰色の鳥が抱卵しています。ちょうど頭が葉に隠れてしまって、鳥の種類は特定出来ません。ま、いいや。気長に観察を続ける事に致しましょう。
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たった5日間でこんなに羽根が生えてきました |
卵が生まれてからちょうど二週間たった夕方の事であります。二階から見ると、親鳥は出掛けていて、巣にはおりません。卵をよ〜く見ようと一眼レフカメラを持ち出し、300mmの望遠レンズを装着して巣を狙ってみました。巣はちょうど影が掛かっており、よく見えないので、露出オーバーで撮影の上PCに取り込み、PhotoShopで増感してみたところ、何と!雛が孵っているではありませんか!!やった〜!!生まれた〜!!縁あってYas家の庭木で生まれた雛たち。こうなりゃもう、家族のようなものです。しかも雛たちの誕生日が、かみさんと同じとくりゃ、親近感もひとしおでありますよ。
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母ちゃん、ご飯ちょ〜だい!! |
卵が孵ると親鳥は急に忙しくなりました。まだ毛も羽も何も生えていない、肌色の肉塊の様な雛たちの保温の為に、覆い被さって巣ごと暖めつつ、餌を取ってきて雛たちに食べさせなければなりません。親鳥は、一旦庭木の横のフェンスにとまって辺りを窺った後、巣に戻ります。取ってきた餌を食べさせて、雛たちを暖め、また餌を求めて飛び出していく。二階の窓から、こうした給餌の為の往復を観察し、親鳥をはっきり確認する事が出来ました。特徴的な頭の毛の立ち具合、長めの尾、褐色の頬、羽ばたいて滑空羽ばたいて滑空という波形の飛び方、「ひ〜よひ〜よ」という鳴き声などから考えて、ヒヨドリに間違いなさそうです。
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親鳥は、隣にあるアパートのフェンスから
周りを警戒しています。
それにしてもこの姿
間違いなくヒヨドリですね。
餌を咥えているのが分かるでしょうか。 |
ウィキペディアによると、生まれてから巣立つまでは10日〜11日間位との事。雛たちがYas家に居てくれる期間はあまり長くはないのですね。それにしても、ヒヨドリは成長が早いですなぁ。高校生や大学生になっても頭の中身は子供のままのうちの馬鹿息子らに比べれば、爆発的成長速度と云っても良い位であります。生まれたての写真と、生まれて5日目の写真を比べてみると、その差は歴然。黒っぽい羽根が生え始めており、骨格もしっかりしてきた感じです。たった5日間しか経ってないのにねぇ。幼鳥は天敵だらけと云っても過言ではないでしょうから、成長が早くないと、きっと生き残れないのでしょうなぁ。
親鳥が巣を離れると、雛たちは一旦は静かになります。と云っても寝ている訳ではなさそうです。兄弟たちの上に乗って、良い位置を確保しようとそれぞれが必死。常にゴソゴソ動いています。兄弟が巣の中心に寄り集まっているのは、保温の為でしょう。一羽では生きられなくても集団だったら生きられる。兄弟は餌を取り合うコンペチタ同士でありながら、保温の為の運命共同体でもある訳です。
親鳥が餌を持って帰ってきました。でもすぐには巣に入らず、ちょっと離れたフェンスに乗って、周りを警戒している様子。嘴に咥えているのは虫のようです。お腹を空かせた雛たちの為に、一生懸命捕獲してきたのでしょう。ヒヨドリは通常期は果実や花の蜜を好むようですが、繁殖期は昆虫類を多く捕食するそう。やっぱ子供の成長には、大量の蛋白質が必要なのでしょうね。
親鳥は、周りを警戒しながら巣に入ります。その途端、雛たちは一斉に大きな口を開け伸び上がり、ぴーぴー鳴きながら、我も我もとアピールを開始。寝室の窓から観察していても、時間を忘れる程の光景です。いやぁ、望遠レンズを持っていて、本当に良かった〜。バッチリ観察出来ますもんね。確かにテレビの番組なんかでは、よく目にするシーンかも知れません。でもテレビではなく、目の前に現実に雛たちが居るのです。こんな場面に生でじっくり立ち会えるとは、何て素晴らしい事でしょう。たまたま巣を覗きやすい位置に寝室の窓があった。きっと偶然に過ぎないんでしょうけど、ヒヨドリの夫婦ががわざわざYas家を選んでくれたようで、とっても嬉しく思います。雛たちに羽毛が生えてムクムクしてきたら、きっと可愛いんだろうなぁ。
悲劇の訪れは突然でありました。雛の誕生から7日目の朝、朝起きていつものように寝室の窓から巣を眺めますと、あれ?巣が空っぽです。いくらなんでも巣立ちには早過ぎます。慌てて表に出て下からも確認しましたが、雛たちはどこにも居ません。地面に落ちてしまった様子もありません。ふとフェンスを見ると、両親と思われる二羽のヒヨドリが、あたかも雛を呼んでいるかの様に鳴き続けています。巣は地面から2m以上の高さに位置していますし、下の枝葉も茂っていますから、さすがに野良猫の仕業ではないでしょう。考えられるとすれば、ヘビかカラスだと思われます。大変残念ではありますが、弱肉強食は自然の摂理。諦めるしかありません。
確かにウィキペディアにも 「ヒヨドリは5〜9月にかけて繁殖する。繁殖期間が比較的長いことについては、捕食されるなど繁殖の失敗による再繁殖が多いことが一つとして考えられる」 とあります。屋根の隙間などに営巣するスズメなどと異なり、お椀型の巣では上空からカラスなどに発見され易いのも事実。現に我々人間にも巣の存在がバレていましたしね。
巣は完全な形で残っていますし、両親とも元気な様子なので、気を取り直して、是非とも再繁殖の為の次の卵を産んでくれる事を願うだけであります。しかし、もし今回の悲劇がカラスによるものだとすれば、頭の良いカラスに巣の位置が分かってしまっている訳でありまして、再度捕食されてしまう確率が高い事を覚悟しなければなりません。Yas家の庭木の巣で二度目の子育てにチャレンジして欲しいような気もしますし、現在の巣を放棄しカラスに見つかりにくい新しい巣を作って、そこで安全に子育てして貰いたいとも思いますし、ちょっと複雑な気持ちなのでありました。あ〜あ、それにしても自然界で生きて行くって、本当に大変な事なのですね。
【つづく】
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