家から自転車で10分程の場所に それまでは、月に一回程度しか来ない市立図書館所有のマイクロバスの巡回図書サービスを待つしかなかった身にとって、小遣いさえ出せば自由に本が買える環境が手には入るというのは、まさに夢のような事でありました。しかし、藤巻ストアの書籍売場には、それまで私が好んで読んでいた児童書はほとんど置いてありませんでした。 文庫本。普段読み慣れている児童書に比べて、極端にルビが少なく活字も細かい。小学生の私にとってそれはまさに「大人の本」に他なりませんでした。当時、誕生日や正月と云った特別な場面で連れていって貰うのは沼津駅南口のマルサン本店。沼津で一番の大型書店であります。勿論ここにも大量の文庫本は置かれていましたが、小学生だった私はそれには見向きもせず、一目散に児童書のコーナーにすっ飛んで行ってしまっていたのであります。本能的に「自分用のモノではない。これは大人用だ」と思い込んでいたのだと思います。 狭い藤巻ストアの書籍売場ではそんな選り好みが許される筈もありません。何しろ文庫本しか置いてないのであります。私は「大人の本」である文庫本を手に取り、立ち読みしてみました。どういう偶然か分かりませんが、その時手に取ったのは、星新一著「盗賊会社」でありました。それだけははっきりと記憶しております。勿論それまで氏の著作を読んだ事など無く、星新一という名前さえ知りませんでした。 立ち読みのまま最後まで一気読みしました。痺れました。巻末の解説を見て、こういう文章をショートショートと呼ぶのだという事を初めて知りました。星新一の本を片っ端から読みたいと思いました。しかし当時の私の小遣いは一日10円でしたから、気軽に本を買うという訳にはいかなかったのであります。星新一の文庫の中で最も薄く安価な「気まぐれロボット」でも180円であったと記憶しています。これとて半月以上一切の欲望を捨ててやっと買える額でありました。そこで私は、学校から帰ると毎日藤巻ストアに通い、立ち読みを続ける作戦に出ました。今考えれば迷惑な小学生も居たものであります。 星新一のショートショートとの出会いこそ、私が「大人の本」に触れた最初であり、その後読書に傾倒していくきっかけそのものでありました。氏は1997年に亡くなるまで、1001ものショートショートを 先日、新潮社から出版された3巻組豪華装丁本「星新一ショートショート1001」を購入してしまいました。定価31,500円。
|