の整理をしておりましたら、10年ほど前の手帳が出て参りました。おぉ懐かしや。この時分、私はまだ自営業者として独立しておらず、サラリーマンとして働いていたのであります。
手帳の後ろの方に「通じなかった英語」と書かれたページがありました。思い出しましたよ。当時、仕事で外国人と話す機会の多かった私は、通じない事で恥を掻いた経験を繰り返さないように、ミスの事例を手帳にメモとして残しておいたのでありました。こうしてみますと、自分では当然英語の表現だと信じていたものが、実は和製英語だったという訳ですね。私の失敗の数々。いくつか挙げてみま〜す。
リベンジ
「前回の入札ではA社に持っていかれましたので、是非とも今回はリベンジしたいと思いまして」という感じで「リベンジ」を使うと、相手は凄く驚きます。米国ではかなり強いイメージで「復讐」という意味に捉えられるからです。「八つ墓村の祟りじゃあ〜」位のノリ。こういった場合、return match と表現するのが一般的なんですよ。え?八つ墓村を知らないって?横溝正史の金田一耕助シリーズの怪奇推理小説でやんすよ。
バイキング
ホテルの朝食など、大皿料理が並んでいて、好きなものを好きなだけ取って良い、いわゆる「バイキング形式」は、米国では全く通じません。完全な和製英語。彼らは、the Vikings が北欧の海賊である事は知っていますが、それが食事の形式とは結びつかないもんですから、「何言ってんだこいつ?」的な対応を取られます。正しくは buffet です。私はこのネタで、プリンストン大学の近くのホテル(ニュージャージー州)で、赤っ恥を掻きました。
ホッチキス
これも米国では通じません。正しくは stapler。「ここをホッチキスでとめる」という場合、Staple Hereと書かれていたりします。stapleは「ホッチキスでとめる」という意味の動詞です。
フライドポテト
マクドナルドで出てくるジャガイモを油で揚げた例の奴を食べたい時は、french fries と注文して下さい。フライドポテトはもっと広義に使われ、揚げたジャガイモ全てを指します。
オーダーメイド
思わず使ってしまいがちな言葉ですが、これも通じません。正しくは、custom-made です。そう言われりゃ分かるんですけど、言われるまで分からないんだなぁ。
コンセント
電源の差し込みの事をコンセントと言いますが、これは米国では、outlet と言わないと通じません。丁寧に言うなら、electrical outlet 。日本語にすれば「電源コンセント」位のノリでしょうか。
プラスアルファ
完全な和製英語です。そもそもαではなく筆記体のxを読み違えたものだとか。でも便利な言葉なので、会議などでつい使ってしまいがち。正しくは、additional
value 。ってそのまんまじゃん。
ラジカセ
ラジカセが和製英語だという事は想像に難くない訳ですが、じゃ正確には何というのかを知っている日本人は少ないんじゃないかなぁ。答えはboom box
。「レディオ・カセット」と連呼しても通じませんので注意してネ。
ガソリンスタンド
米国ではガソリンと呼ばずガスという事が多いようです。ガソリンスタンドは、gas station 。standはもっと小さい、キオスクのような店を意味します。
クラクション
hornです。言われりゃなるほどと思いますが、中々出てこない単語の一つであります。
ジェットコースター
「日本には富士急ハイランドっていう Amusement Park が有ってね、そこのJet Coaster がスゴいんだ」と話したら、もの凄い反応。それもその筈、米国人の彼らは、車体後部のジェットエンジンから火を噴きながらすっ飛んでいく列車のアトラクションを想像したって訳。正しくは
roller coaster です。
ベテラン
仕事の経験豊かな方をベテランと呼んだら、変な顔をされました。I am not an ex-soldier."私は軍人上がりではない"と仰る。veteranは退役軍人の事なんですね。日本語で言うところの「ベテラン」は
expert と称するのが普通です。覚えておいて損はありませんぞ。
ジョッキ
ビールを飲む時のジョッキ、実は英語ではないようなんです。全く通じませんでした。それどころか jockey (騎手)と間違われて参った参った。米国では beer mug と言います。この話を英国人の友人に話したら、ロンドンでは jug って呼ぶよって言ってました。なるほどね。野球部員が使うデッカい水筒の事をジャグって言いますもんね。
メタボ
中年太りみたいなニュアンスで、最近とみに使われるようになった「メタボリック」という言葉。英語では単に fat (太ってる)とか big(でかい)などと言います。米国人の友人に「じゃ、metabolicってどういう意味で使うの?」と聞いたところ「皮膚が古くなって剥がれて、その代わりに新しい皮膚が生まれるでしょ」とか何とか、訳分かんない事をクチャクチャ言ってるので、結局自分で辞書を引いてみたら、metabolic
は「新陳代謝の」という意味の形容詞なんですな。ちなみに名詞は metabolism 。
マンション
「29歳の時にマンションを購入して」と言ったら相手はびっくり。どして?アメリカでは一軒家しか買わないのかな、とか考えたのですが、どうも話が合わない。実は日本人のいうマンションは英語では
condominium というのが普通。mansionは「豪邸」の事だったのでありましたとさ。
これまでに挙げたお話は、全て私自身が犯した失敗談。結構やらかしてますなぁ。こういうミスりやすい表現って、中学の英語の時間に教えてくれれば良いのにね。私に限らず、相当な数の日本人が、海外で恥を掻いてるんじゃないかなと思います。
さて最後に極めつけを一つ。これは私自身の失敗ではないのですが、私の目の前で起こった実話であります。
アリゾナ州フェニックスで行われた、コンタクトレスICカードについてのISOのTF(タスクフォース:専門委員会々議)に出席した時の事。会議のメンバは20人位で、そのうち私を含む2名が日本人でありました。フランス人やドイツ人もいらっしゃいましたが、国際会議という事もあり会話は全て英語で進みます。隣の某有名国産企業のおじさんは、あまり英語が堪能ではないご様子。私も英語が得意って訳ではなく、話を聞き意見する位は出来るレベルに過ぎないのですが、この某有名国産企業のおじさんは、どうも丸っきり分かっていない様子なのです。会社は違いますが同じ日本人として、ここは助けてあげるべき場面でありましょう。私はこの某有名国産企業のおじさんの為に、会議の内容を邦訳しおじさんの意見を英訳して発表したりしてやっていたのであります。
会議はつつがなく進み、一応の決着をみました。皆、一様にほっとした表情になります。ISOの会議というのは国際規格を決めていく為の会議ですから、自社の推奨する規格に誘導しようと、皆、必死で侃々諤々の戦いを進めていくものなのでありますよ。勿論、国際規格が一旦決まれば変更は至難。故に、会議においては必要以上に結論を急ぐ事はありません。「急いては事を仕損じる」を嫌うのであります。フェニックス・ラウンドはこれで終わり。各人、本国に持ち帰って方針を練り直し、次のラウンドに備える事になります。ミーティングルームは一転して和やかなムードに変わります。会議中はコンペチタ同士ですが、会議が終われば出張仲間ですからね。私はチェアマンのドイツ人のシーメ○スのおじさんと地元フェニックス・モト○ーラのおじさんに誘われ、スコッツデール旧市街のバーにバーボンを呑みに行く算段をしておりました。ジャズの生演奏が凄いんだって。こうした小さな国際交流も、海外出張のささやかな楽しみであります。
すると突然、某有名国産企業のおじさんが立ち上がりました。そして「My company like plan B, one please!」と叫ぶではありませんか。likes と云う具合に三人称単数現在のsが無いのはご愛敬としても、はなはだ唐突な発言です。「うちの会社はプランBが好きです」とは「プランBを推していきます」位の意味でしょう。会議は一応の決着をみて、皆、本国にそれを持ち帰って練ろうというフェーズでのこの発言は、ちょっと高飛車な印象を受けます。そもそも会議終了後のコメントはルール違反でもあります。
「Hey YAS! What's the meaning of "One Please"?」とドイツ人チェアマンが私に聞いてきます。わかんねぇよ、何?"One Please"って。周りの人たちも私に「彼が何を云おうとしているのか、日本語で聞いてくれよ」と仰います。しょうがねぇなぁ。私は某有名国産企業のおじさんに日本語で、「最後の"One Please"って何です?みんな意味を聞きたがってます」と伝えますと、「そりゃ『ひとつ宜しく』に決まっているでしょう」と宣うではありませんか!!"One Please"=「ひとつ宜しく」!!
翻訳しようがないので、仕方が無く、「"One Please"とは『Thank you for your cooperation』の意味だそうです」と伝えましたが、皆さん釈然としないご様子。そりゃそうだろうなぁ。明らかに語呂の長さも違いますしね。でも、他に伝えようがなかったのでありますよ。
当の某有名国産企業のおじさんも飲み会にお誘いしたのですが、行かないとのご返答。今日の会議のレポート作るんだって。折角の機会なんだから来れば良いのにねぇ。こっち(フェニックス)が金曜の夕方って事は日本は土曜日のお昼な訳で、日本のオフィスは休日って事で、結局月曜日までは動きがないでしょうから、そんなに急ぐ事ないと思うんだけどなぁ。それより会議の後の交流の方が、よほど今後の開発のヒントになったりするってぇのにね。少なくとも、気軽に電話出来る同業他社の人間に知り合う機会なんてほとんど無いのが普通。しかも、最先端技術者の集まりな訳だし。
この晩は、スコッツデールのアメリカン・トラディショナルなバーでバターナッツを摘みながら、日本人のミステリアスさについての話題で盛り上がったのでありました。「日本人ってミステリアスで、彼らが何を考えているかを理解するのは、我々にとって大いなる困難だ。そうだろYas?」って、あのね、私も日本人なんですケド(笑)。ま、いいか。素晴らしい料理と美味しいお酒があれば、他には何も要りません。
ちなみにこの晩は大いに呑みたくさん食べ、楽しく国際交流させて頂きました。翌朝、hangover が「二日酔い」を意味する単語である事を、身をもって学習した次第であります。
【つづく】
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