はブッキッシュな人間であります。世間一般に「読書好き」と聞くと知性派を想像される方が多いようですが、少なくとも私の場合に限って云えば、そんな事は全くありません。単にエンタテイメントとして活字を好むというだけの事に過ぎないのであります。ある情報を得るのにテレビを観るか新聞を読むか。知識の吸収という意味において、両者の違いはほとんど無いと思うのです。テレビは受動的。だからテレビばかり観ていると馬鹿になっちゃうよ。こういう意見を振り回す方ほど、実は自らはあまり活字に触れる機会がなかったり致します。本は面白くてテレビは面白くないとメディア自体の優位性を決めつけるなど、まったくおかしな話です。面白い本もあればつまらない本もある。面白いテレビ番組もあればつまらないテレビ番組もある。それだけの事なのにね。
そこまで分かっていて、あえて自分をブッキッシュといったのは、私の月間の書籍費が結構な高額だからでありまして、本屋でちらと表紙を見てちょっと興味を持てばすぐに買っちまうのであります。実際のところ、かみさんにはちょっと言えないような金額。箱根のような高級リゾートは無理にしても、かみさんと二人でそこら辺まで一泊旅行に行ける位の金額を、毎月毎月書籍費として投入しておる訳ですからね。
新刊が出るやいなや、それを読んでみたい。こうした読者の要求を逆手にとって、出版社は話題作を豪華装丁で出してきます。汚ねぇ奴らだなぁ(笑)。一年後には文庫化されるのは分かっているにも関わらず、それが待てず、みすみす高価いと知りながら買ってしまうのです。著作権法がある以上、版元は特定の作品について常に寡占状態にある訳で、安価な文庫本を出さずにハードカバーだけを意図的に販売する今のやり方って、独占禁止法に触れないのかしらん。
私は活字無しでは、過ごせません。故に身の回りには、常に本を携えています。例えば現在、私の鞄の中には森見登美彦著「ペンギン・ハイウェイ」角川書店刊が入っています。初版は平成22年5月30日発行ですが、私のものは第5版で平成22年12月25日発行。割と新しい本です。特に森見登美彦という作家に思い入れが有った訳ではなく、オビを見てふと興味を持ったから買っただけ。定価は1600円であります。そのオビを書き出してみます。
第31回日本SF大賞受賞作!!
僕は知りたい。街で起こる不思議な現象について、この世界の始まりについて、そしてお姉さんの謎について。
僕は小学四年生だが、大人に負けない位色々な事を知っているし、努力を怠らないから、将来はきっと偉い人間になるだろう。五月のある朝、僕の住む郊外の街に突然、ペンギン達が現れた。このおかしな事件には、歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっているらしい。「この謎を解いてごらん」お姉さんは言った。そして僕は、ペンギンとお姉さんについての研究を始めた。 |
確かに興味をそそられる書き方であります。ま、それが出版社の狙いですからね。エンタテイメントの宣伝とはそういうもんでしょう。映画の宣伝と同じです。私の場合、約350ページの小説を読了するのにおそらく2時間弱。時間的にはロードショウ映画を観るのと同程度のエンタテイメントという事になります。そうしますと1600円というこの本の定価も、映画と同等と考えれば、ま、そんなもんかと思える金額です。
ところが、しか〜し!実は私はこの本を本屋から正規購入したのではなく、中古をブックオフで購入していたのでありました。ななな何と、購入金額は550円。1600円の本、しかも見たところピカピカで新品と区別出来ないクオリティにも関わらず、定価の約65%オフ!ありがたい事であります。何だよ、たった1050円浮いたってだけの話じゃねぇかよ。シミッタレてやがるなぁ。違うのでありますよ。確かに浮いたお金は些少かも知れません。私の申し上げたいのは、これが乱読の為の書籍購入を阻害しない金額である点なのであります。
とかく本を読まない人ほど、本を大切にしましょうとか、良書を読みましょうとか、無理な事をおっしゃいます。それじゃお聞きしましょう。良書って一体何でしょうか?本の価値は読者それぞれの価値観に影響を受けます。ある人が良い本だと感じたとしても、それが私にとっての良書であるとは限らない。極めつければ、自分にとっての良書に出会う為には、乱読しか方法がないのです。愚作を含む覚悟で書籍を購入するにしても、それが1600円と言われた日にゃ、購入を躊躇するのも無理からぬ事でありましょう。1600円と云やぁ、焼鳥屋で一杯やれる金額ですからね。
読んでみれば面白いものであったのかも知れないのに、金額に躊躇して機会を失ってしまう。これもまた勿体無いお話で御座います。好きな作家の新作であればそんな心配とは無縁でしょうが、新たに
Favoriteな作家を発掘する意図でチャレンジしてみる場面では、ブックオフの価格は本当に有難い。しかも今回のペンギン・ハイウェイはそこそこ新しい本なので550円でしたが、350円のものや105円のものもたくさん店頭に並んでいるのです。千数百円の本が105円!!まさに夢のような店であります。
作家を育てる為には中古を買ってはいけません、新品を買えば印税という形で作家に利益が環流しそれが次回作に繋がるのですから、と云われた事があります。私は根本的にこの考えはおかしいと考えています。海賊版や違法コピー品ならばともかく、作家の受け取る印税にはリセールされる価値分も含まれていると思うからです。
ブックオフのようなリセール業者が存在するからこそ、あとで売れば良いやと考えて新品購入に踏み切る人もいる筈なのです。リセール環境が整っているからこそ新品が売れるという事実を考えれば、リセールの否定は意味のない感情論である事が分かります。こうした考えは、トヨタの開発費を確保する為に、中古車の購入を控え必ず新車を買いましょうという意見や、株式の通常売買を禁じて、新株の引き受けだけにしましょうという考えと同じで、現実的なものではないと思うのです。
ま、そんな事より本が安いのは、単純に嬉しい事であります。ブックオフにはスーパーマーケットで使うようなレジかごが置いてあります。このかごにポイポイとハードカバーを入れていく快感。読もうかどうしようか迷ったら躊躇無く購入出来る幸せ。私はブックオフに出掛けると、大概ハードカバーを10〜15冊ほど購入します。定価で2万円を超える書籍が千数百円。至福です。図書館で借りるのも良いのですが、所有し、いつでも読み返せるという安心感は格別であります。
私が幼少の頃、小学校低学年の児童が徒歩や自転車で行ける範囲に図書館は無く、もっぱら沼津市立図書館のマイクロバス、確かあの頃このマイクロバスを「巡回文庫一号」って呼んでたっけ、が私と書籍の接点でありました。当時私は、ポプラ社刊の江戸川乱歩著、少年探偵シリーズと、偕成社刊のコナンドイル著・久米元一訳、名探偵ホームズシリーズに夢中でありました。こうしたいわゆる児童向けの書籍は、大概立派なハードカバー仕立てでありまして、当時はよっぽど金持ちの家でない限り、ポイポイと子供に買い与えられるような代物ではありませんでした。クリスマスや誕生日に欲しいものは何?と問われれば、「本」と即答するような子供であった私は、事あるごとに親に本をねだっていましたが、「そんなに本が欲しいのであれば、大人になって自分でお金を稼ぐようになったら、自分のお金で好きなだけ買いなさい」と誤魔化されていました。
あの頃は大人にさえなれば好きなものが好きなだけ買えると信じていました。自分の女房に文句を言われるなんて事、想像すらせずにね(笑)。ブックオフは、私の幼少の頃からの夢を叶えてくれる、パラダイスのような店であります。ブックオフありがとう。ブックオフ万歳!!
【つづく】
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