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 ALPS処理水の海洋放出について(第5話:生物濃縮の危険を考えてみる篇) 

毒性物質の廃棄時に最も意識し注意しなければならないのは、生物濃縮と云われています。

 かつて九州の水俣湾で発生した水俣病は、海洋投棄された有機水銀に起因するものでした。魚介類が即死する程強い毒であれば、投棄とともに魚の死骸が上がりますから、危険はすぐに察知出来ます。しかし水俣の事例では、有機水銀の濃度が低かった為に魚介類はすぐには死なず、有機水銀が魚介類の体内に蓄積されてしまいました。汚染された小魚を中型魚がたくさん食べ、こうして汚染度の上がった中型魚を大型魚がたくさん食べ、更にその大型魚を人間が食べる事で、有機水銀の体内濃度が高まってしまったのでした。いわゆる生物濃縮です。

 福島第一原子力発電所の場合、IAEA(国際原子力機関)とも話し合い、トリチウム(三重水素)を含んだ水は1リットル当たり1,500ベクレル以下の濃度(飲料水用の規定値の約6分の1という、とても厳しい基準)で海洋投棄されています。濃度としては十分に薄い訳ですが、問題は、これらが生物濃縮されてしまわないか、という懸念でありましょう。

 トリチウムは、水素原子の同位体で、主に水分子(H2O)の形で生物体内に取り込まれます。水は体内を循環し、最終的に体の外に排出される訳ですが、トリチウムの生物学的半減期は10日間と云われていて、有機水銀のように体内の特定の臓器に蓄積されたりしないので、生物濃縮の心配はありません。

 そもそもトリチウム水に生物濃縮の恐れがあるのなら、微生物や小魚に吸収させて除去すれば良い筈であります。この事からも、生物濃縮の危険を声高(こわだか)に提唱するのは、科学的にはナンセンスである事が分かるでしょう。

【つづく】

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