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 処理水の海洋放出について(第1話:そもそもトリチウムとは何だろう篇) 

ずはトリチウムとは何かを簡単に説明してみましょう。一般的な水素原子の原子核は、陽子1つのみで構成されています。これに対し、陽子1中性子1で構成される水素原子も存在し、これは一般的に重水素(じゅうすいそ)と呼ばれます。トリチウムは、重水素に更に中性子がもう1つ追加された形の、いわゆる三重水素と呼ばれるモノであります。

 原子力発電所では、核燃料の中のウラン235に中性子をぶつけて核分裂させ、膨大な熱量を取り出します。その際ウラン235は、ヨウ素131、キセノン133、セシウム134、ストロンチウム90などに分裂します。核燃料の95%以上を占めるウラン238はウラン235の様には分裂せず、中性子を捕獲してプルトニウム239に変わります。本当は、ウラン235の分裂により、直接セシウム134が出来るのではなく、キセノン133がベータ崩壊してセシウム133になり、更にそれが中性子を捕獲してセシウム134になったりと、それなりに複雑な過程が存在するのですが、まあ、ここでは細かい事は気にしないで良いでしょう。

 ウラン235の分裂により新たな中性子が飛び出し、これが更なるウラン235の分裂を引き起こし、反応は連鎖的に広がっていきます。このままでは級数的に核分裂が昂進してしまう、いわゆる核爆発に繋がってしまいます。ちなみに原子爆弾はこうした原理を用いて、核分裂を爆発的に一気に起こしているのです。

 原子力発電所では飛び出す中性子を、制御棒と呼ばれる機構で吸収し、爆発的な分裂が起きないように、ただし逆に吸収し過ぎて分裂が止まってしまわないように、細かく反応を制御しています。こうした制御棒は主に炭素とホウ素で出来ています。

 軽水炉と呼ばれる形式の原子炉では、中性子を減速させ熱水として熱エネルギーを取り出す為に、水が使われます。いわゆる冷却水です。この水分子に僅かに含まれている重水素が中性子を捕獲してトリチウム(三重水素)が発生するのです。また加圧水型の原子炉では、減速材としてホウ素を添加した水が用いられ、重水素由来のトリチウムの他に、ホウ素と中性子の反応によるトリチウムも発生します。

 通常、ヨウ素131、キセノン133、セシウム134、ストロンチウム90、プルトニウム239などの核種は、原子炉内に厳重に閉じこめられています。しかし、これらとは別系統の冷却水は、使用後、海に廃棄されますので、軽水炉、加圧水炉のいずれも、冷却水に含まれるトリチウムは、常態的に海洋投棄されているのです。これは日本の原子炉に限った話ではありません。世界中の原子力発電所は恒常的にトリチウムを海洋中に出し続けています。原子力発電所の運用として、トリチウムの海洋投棄はあくまで普通の事なのです。

【つづく】

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