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  新しい自転車を手に入れろ!(第16話:滑らかなる事、絹の如し) 

福生南公園にて

 ボンバー号の初出動では、多摩川サイクリングロードを上流に進み、あきる野市民球場を目指す事にしました。私の仕事は午後からですので、午前中は割と自由に使えます。朝早く出ればかなり遠くまで行けるのですが、今回は敢えて平地の近場を選択。慣らしの意味もあり、平地で乗り味を確かめようという意図であります。それに多摩川CRであれば万が一トラブルが発生したとしても街道に沿っていますから、最悪タクシーですぐに帰ってこれますしね。

 万願寺基地を出発してすぐに、ころがりの良さに気付きました。惰性で進む時の走行抵抗が極端に少ない感じ。全ての道が緩い下り坂になったような感覚です。今回チョイスしたアルテグラのハブはラチェット音がほとんどしない事もあり、す〜っと静かにどこまでも進むイメージ。ハブのベアリングの回転抵抗が少ない事、ホイールの真円性が高い事、前後輪の整列も含めた車体のセンターがきちんと出ている事による効果だと推測されます。

 立日橋北詰から残堀川に沿って西に入り込み、一旦東にちょっとだけ戻りながら、多摩川河川敷のグランド面に降りてみます。ここは一応アスファルトが張られていますが、表面は荒れていてガタガタ。ここを30Km/h程度で走っていきます。え、まじ?アルミフレームのピナレロ号では、ガッタガタの振動の中を走らざるを得ない区間だったのですが、ボンバー号では路面からの不快なバイブレーションがあまり上がってきません。ラグジュアリーな乗り味です。滑らかなる事、絹の如し。これが今まで話に聞いてきた、クロモリの振動吸収性って奴かしら。振動を吸収すると云っても、サスペンションの様に全ての振動を物理的に除去するのではなく、必要な路面情報は的確に伝わって来た上で、不快な微振動のみが軽減されています。非常に好ましいフィーリング。

 福生の永田橋を渡って、多摩川の川岸段丘の上の段に登る短い坂道を、わざと重めのギアで登ってみます。おぉ。ぐぃっぐぃっと踏み込む度にフレームからの応力を感じます。軽いギアでクルクル回すのではなく、適度に重いギアをしかもリズミカルに踏む事で、反力のタイミングとケイデンスが一致する、いわば周波数が合う時があり、そうなると面白いように、踏んだ力が登坂力に変わるのが体感出来ます。嬉しい。本当に嬉しい。工芸品的な綺麗さにも感激しましたが、自転車としての基本性能も、素人の私にもはっきりと分かるくらい高いレベルにあります。高価かったけど思い切って買って良かった。いや逆にこれ程の性能であれば、安い買いものであったとさえ思えます。

 こうした乗り味は、クロモリ鋼という材質によるところも大きいでしょう。でもそれだけでは決してないと断言出来ます。ジオメトリがきちんと私の体の寸法に合っている事。部品精度や組立時の整列がきちんと出ている事。こうした造りの良さが、滑らかなフィーリングに繋がっているのです。これがボンバープロの仕事であり、マングローブバイクスの品質なのでありましょう。オートバイのエンジンでもそうですが、ピストンの重量バランスがきちんと取れている状態にチューンされたモノは、特別な仕掛けや高価な材料を使っていなくても、全域に渡って抵抗無く回り、振動も少なく、結果として出力も向上するものであります。ゴルフでも本当に芯で玉を捉えた時ほど、手にほとんど抵抗を感じず、それでいて信じられない程遠くまで飛んでいくではありませんか。

 こうした精度の高い加工や組み付けは、誰にでも出来るものではありません。技術力や経験は当たり前として、一種、過剰品質とも呼べる様なこだわりがあって初めて実現出来得るレベルの性能であります。一つでも精度に問題がある部分があったとしたら、その誤差を収束する為に、別の部分に無理が掛かり、更にその無理を収束しようとして、更なる無理に繋がります。一応動く、というレベルであればそれでも良いでしょう。しかし真のチューンナップとは、本来、いかなる面からも性能破綻が微塵も無いという完璧性を求められる作業なのであります。

 私は今の職業に就く前は、ソフトウエアの開発に従事していました。ソフトウエアは無形ではありますが、その作業はれっきとしたモノ造りであります。ここまで配慮するか、という過剰品質とも呼べる考慮や段取りが安定した動作に繋がり、「想定外の事態」って奴を減らしていくのです。逆に無能なプロジェクトリーダ程、「そういう仕様ですから仕方ありません」という言い訳を使います。あの頃、「よくぞここまで考えて造り込んで下さいました」「おぉ、お分かり頂けましたか」という会話を発注主と交わせる事が、造り手としての至上の喜びであったものです。

 こうした過剰とも云える高品質が、かつては日本の工業製品の売りでありました。今回のマングとボンバーの緻密な仕事に、日本の正しいモノ造りの心意気を見た気が致します。

【つづく】

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