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  疾走れ、かあちゃんライダー!(第3話:違法練習 後篇) 

はっと我に帰ると、愛機ZRX1100号は、約30m前方をガクガクと車体を震わせながら微速で進んでおりました。いかん。絶対にコカす。私は愛機ZRX1100号に向かって、走り出しておりました。まさに全力疾走であります。微速といえどもそこはバイク、走っても走ってもなかなか追いつきません。300mはあった筈の向こう側のフェンスが、みるみる近づいて参ります。

ここでもう、賢明なる読者諸君はお気づきになったかも知れません。そう、愛機ZRX1100号は最高出力106馬力。しかもバルブの開閉タイミングを従来機から変更する事で、カワサキ車の中でも屈指の低速トルク特性を誇るオートバイで、ようは、馬鹿力があるのです。アクセルだけでパワーリフト(ウイリー)してしまう程のバイクなのです。その高出力バイクを、しかも一速を使いながら、ガクガクとノッキングさせながら走り続けるとは、魔法でも使っているとしか思いようがありません。
動悸、息切れ、きつけ には、
やっぱり救心が一番でしょう

 愛機ZRX1100号のテールランプが明るく点灯しました。かみさんが停止しようとしています。まずい、ホントにまずい。Uターンに続いて立ちゴケが多いのが、停止の時なのです。ぐらり。あぁ、言わんこっちゃない。停止と同時にバイクは左に傾きはじめました。立ちゴケです。新車の立ちゴケです。この時点での私と愛機ZRX1100号との距離は15m。私はかすかな可能性に賭けて、目をつぶって猛然とダッシュしたのであります。

 約30度傾いた時点で、からくも私は愛機ZRX1100号のテールカウルに追いつきました。タンデムグリップをしっかり持って引き起こします。助かった。無事であります。危なかった〜。この間、わずか1.47秒。100mに換算しますと9秒85であります。私のこの日のダッシュは、まさにオリンピック級でありました。

 立ちゴケの危機は去りました。私が支えてさえいれば、もう、大丈夫です。良かった。ほんとに良かった。危うく新車をコカしちゃうとこだった。ごめん、ごめんよ、愛機ZRX1100号。俺が馬鹿だったよ。もう、初心者なんかに運転させないからな。俺を勘弁しておくれ。

 ところが当のかみさんは、コケそうになった事など、全く意に介していない様子。それどころか、ゆっくり振り返ると私に向かってにっこり笑いながら、こう、ノタマウではありませんか。

 「あーおもしろかった。もう一回乗ってもいい?」

 私は安堵の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、小さな声で 「ギブ」 と言うのが精一杯で御座いました。

【つづく】

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この文章は、基本的にホントの話ですが、すげー、脚色されています(笑)。
さすがの私も、100mを9秒台で走るのは、無理であります(爆)。
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