愛機ZRX1100号のテールランプが明るく点灯しました。かみさんが停止しようとしています。まずい、ホントにまずい。Uターンに続いて立ちゴケが多いのが、停止の時なのです。ぐらり。あぁ、言わんこっちゃない。停止と同時にバイクは左に傾きはじめました。立ちゴケです。新車の立ちゴケです。この時点での私と愛機ZRX1100号との距離は15m。私はかすかな可能性に賭けて、目をつぶって猛然とダッシュしたのであります。 約30度傾いた時点で、からくも私は愛機ZRX1100号のテールカウルに追いつきました。タンデムグリップをしっかり持って引き起こします。助かった。無事であります。危なかった~。この間、わずか1.47秒。100mに換算しますと9秒85であります。私のこの日のダッシュは、まさにオリンピック級でありました。 立ちゴケの危機は去りました。私が支えてさえいれば、もう、大丈夫です。良かった。ほんとに良かった。危うく新車をコカしちゃうとこだった。ごめん、ごめんよ、愛機ZRX1100号。俺が馬鹿だったよ。もう、初心者なんかに運転させないからな。俺を勘弁しておくれ。 ところが当のかみさんは、コケそうになった事など、全く意に介していない様子。それどころか、ゆっくり振り返ると私に向かってにっこり笑いながら、こう、ノタマウではありませんか。 「あーおもしろかった。もう一回乗ってもいい?」 私は安堵の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、小さな声で 「ギブ」 と言うのが精一杯で御座いました。
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