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  疾走れ、かあちゃんライダー!(第2話:違法練習 前篇) 

前にもお話した通り、かみさんはペーパーライダーです。結婚前に私に触発されて普通二輪免許(当時は自動二輪中型限定免許と呼ばれていました)を取得したのが二十歳の時。それ以来、一度も公道でバイクを運転する事無く10年以上が経過してしまっておりました。教習所で運転した事があるだけで、バイクに乗る事なく10数年経過してしまった状態では、実力の程は二輪免許を持たない方とほぼ変わりがないのであります。

 いくら免許があったとしても、このままでは路上の迷惑野郎になるのは明白。それで済めばまだマシで、事故でも起こされたら目も当てられない。法的に運転可能云々の問題ではないのです。いずれにしろ、このまますんなり彼女に250ccバイクを買ってやる事は、私のライダーとしてのモラルが問われかねません。

 静岡県警に問い合わせてみますと、「ペーパードライバー教習」は存在しても、「ペーパーライダー教習」はやっていないとの事。さぁ困った。どうしようか。

教習車は、
愛機ZRX1100号

 そこで、購入前に私設秘密特訓を行なう事に致しました。ちょうど市営プールに広〜い駐車場があって、しかも季節は冬。全く車の出入りがないこの絶好の場所で、秘密特訓を敢行する事に致しました。教官は私。ギャラリーはうちの子供たち。教習車は愛機ZRX1100号であります。

 これね、ホントはいけないんですよ。立派な無免許運転なんです。まあその辺は目をつぶって貰うとして・・・。

 実のところ、私、かみさんの実力を過大評価していたので御座います。いくらペーパーだと言っても一応動かすだけだったらなんでもないだろう位に考えていたのですね。ほら、私も現在の愛機ZRX1100号が来るまでは約12年間のブランクがあった訳ですが、「跨った瞬間に思い出す」ってのがあるじゃないですか。かみさんにしても、実際に運転してみりゃ不安も取れるだろ、と軽く考えていたのであります。

 知らない方は「250ccに乗る為に1100ccで練習するなんて」とお考えになるかも知れませんね。でもね、運転感覚は実際にはほとんど変わりがないんですよ。少なくとも教習レベルにおいては。そりゃ1100ccの方がはるかに馬力もトルクもありますし、ちょっとアクセル開ければすぐ200Km/hになっちゃいます。車重もありますから曲がる時の遠心力も強くなりますしね。しかし、いざ教習となると、トルクがある分エンストしにくいし、重い車体重量も、ゆっくり走る分には安定感に繋がるんです。

 最初は一速で発進し、直進のまま二速にシフトアップ。まっすぐそのまま直進走行してゆっくり停止する練習です。基本中の基本ですな。初心者の多くはUターン時にバイクを支えきれず転んでしまうパターンが多いのですが、直進だけならば比較的安心です。

 私は初心者のかみさんが運転しやすいようにバイクの向きを進行方向にあわせ、、エンジンをかけた後、ギアをニュートラルに入れた状態で、サイドスタンドを立てました。広い駐車場ですから、向こう側のフェンスまでは300m以上あります。

 さあ、いよいよ教習開始。子供たちの見守る中、母ちゃんはサッと我が愛機ZRX1100号に跨り、素早くサイドスタンドを蹴り上げました。はじめて見る、しかもいつもとはちょっと違う、颯爽としている母ちゃんの姿に、一同おぉっと声をあげたので御座います。

 ところが、手に汗握る家族をよそに、当のかみさんはなかなか発進しません。しかも何か忘れ物を捜しているような、そんな感じのオドオドした様子。どうしたの、と聞くと、彼女は蚊の泣くような声で、ボソリと言いました。

 「ギヤってどう入れるんだっけ?」

 これはコカす。私は瞬間的に確信致しました。愛機ZRX1100号は新車で購入した後、立ちゴケすらした事がありません。ピカピカの新品なのであります。私はあまりの衝撃のため薄れ行く意識の中で、かみさんに練習させちゃおうなんて馬鹿げたアイデアを実行に移してしまった事を、モーレツに悔いていたのでありました。

 「あ、そうだ。思い出した」。かみさんはそう言うやいなや、クラッチを握り、ガシャンとギアを一速に入れました。しかもそのまま発進しようとしています。うわー待ってくれ。だめだ発進しちゃ。コカす。絶対にコカす。そう叫ぼうとした私の口は突如硬直し、実際にはパクパクしているだけでありました。かみさんの運転する我が愛機ZRX1100号は、スルっと微速で前進を始めました。クラッチを繋いだのであります。私は自分の背中を冷汗がツーっとつたうのを感じながら、今度こそ、本当に失神したのでありました。

【つづく】

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この文章は、ほとんどホントの話ですが、かなり、脚色されています(笑)。
つーか、こんな漫才みたいな夫婦、居るかよ(爆)。ふつー日常生活において、失神なんてしないわな。
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