が高校生の頃のお話で御座います。小学館のビッグコミックオリジナルに連載されていた、矢島正雄原作、弘兼憲史作画の漫画、「人間交差点 Human
Scramble」 は、私にとって、大人の世界を覗く窓のような存在でありました。当時は小遣いが限られていた事もあり毎回欠かさず雑誌を購入する事も叶わず、更にビッグコミックオリジナルが週刊ではなく月2回発行の雑誌だったこともあり、買うのを忘れたりして、読んだり読まなかったりという具合でありました。しかし「人間交差点」は一話完結型でありましたから、とびとびで読んでも、さほど差し支えなかったのであります。
各話ごとに主人公もバラバラで、受刑者であったり、大企業の役員であったり、陶芸家であったりと様々でしたが、全話を通じて「人間模様」というテーマは一貫しておりました。当時高校生であった私には、作者の本当の意図まで理解する事など到底無理だったのですけれども、それでも「人間交差点」を読んでいる間は、自分がいっぱしの大人になったような気がしたものであります。
大学時代も時々は読んでおりました。ところが社会人になって東京に出て参りますと、何しろ仕事が忙しくて、漫画を読む余裕はなくなってしまいました。私はバブル崩壊と同時に就職した、いわゆる「新人類」と呼ばれた世代なのですが、特にあの頃のIT業界は残業が常態化していて、更に、新しいテクノロジもどんどん出てくるとあって、夜中まで残業をこなし、休日は自費で購入した技術書を読むという、一種、修行僧のような生活をしておりました。今のお若い方には到底理解出来ぬと思いますけれども、当時はこうした働き方は割と普通だったのでありますよ。
いつの間にか読まなくなってしまった「人間交差点」でありますけれども、その存在が世から忘れられる事はありませんでした。作画を担当した漫画家の弘兼憲史氏は「課長島耕作」で大ヒットをとばし、漫画界の重鎮となっておりましたし、その彼の若い頃の作品群として、「人間交差点」も単行本化されて、販売し続けられておりました。絶版とならずに40年以上も本屋の店頭に並ぶというのは、普通に考えましても並大抵の事ではありません。
「人間交差点」をもう一度読んでみたい、という衝動に駆られたのは一度や二度ではなかったのですが、全27巻もの漫画本を置いておく場所的余裕もなく、購入計画はその都度頓挫していたのでありました。
先日ひょんな事からネット上で「人間交差点」に関する弘兼憲史氏のインタビュー記事を見たのをきっかけに、衝動的に全27巻電子書籍版を大人買いしてしまいました。定価20,493円のところ、持っていたクーポンを使って17,415円。漫画にこの金額ですから、立派な大人買いでありましょう。流石に45年前の漫画という事もあり作画の古さは否めませんが、令和の現代においても些かも古びていないその人間描写は、流石の一言に尽きるというもの。
ゆっくりと一話一話を噛み締めつつ、初めて読んだ当時を思い出しながら、時間を掛けて楽しんでおります。あの頃背伸びをして覗き見た大人の世界が、今ではお若い方々の生き様として読めるのは、不思議な感覚であります。若い頃には若い頃の、おっさんになってからはおっさんとしての、感慨や想いが感じられるのは、「人間交差点」が名作である証でありましょう。「確かに我々はこういう時代を生きた」という事実を改めて思い出しつつ、40年ぶりの再読を楽しんでおります。
【つづく】
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