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  嗚呼クロモリの誘惑  

 物欲

 スポーツ自転車にお乗りにならない方に中々お分かり頂けないのが、自転車の値段であります。ホームセンターに行けばいわゆるママチャリが1万数千円で買えるにも関わらず、ロードバイクの価格たるや25万円〜30万円。しかもその価格帯はエントリーグレードのモノ。本当に良いなと思うモノは50万円を越えてるなんて、実はこの世界では普通の事なのでありますよ。

 こうした異常な世界の中で異常な夢を見続けますと、人間は変態化して参ります。ま、この辺りのお話は、「自転車に乗って変態になろう!」をご覧頂くと、良〜くお分かり頂けますですよ。

 モノが高いか安いかを考える際、単純な購入価格の比較は無意味であります。耐用年数で割り返してみて、一年当たり幾らに相当するのかを比べなくては、本当の価値比較にはなり得ません。という訳で今回は、自転車の耐用年数について考えて参りたいと存じます。

 果たして自転車はどの位の期間の使用に耐え得るものなのでありましょうか。様々な説や意見が雑誌に載っておりますが、どうも、どれも的を得ているとは思い難いのであります。3〜4年が限界という意見も有れば、メンテをしっかりすれば何十年も乗れる、いわゆる一生モノである、という意見もあります。そもそも工業製品の耐用年数を考える際、1.どの程度のメンテナンスを想定しているか、2.どこまでを交換不能な基幹部品、どこまでを定期交換部品と認識しているか、を抜きには語れません。雑誌での意見はこうした耐用年数に関する定義を抜きに語られていることが多く、故に意見が千差万別になっているのでしょう。

 予想耐用年数がバラつく原因として、定義の不備以外にも、材料のハイブリット化も挙げられましょう。私の所有するピナレロFP2号はアルミフレームのロードバイクですが、シートステーはカーボン製で、通称「カーボンバック」と云われる形式のフレームです。一般的にアルミ製のフレームはダイレクト感があり推進力のロスが少ない代わりに、振動吸収性に欠けると言われており、この欠点を補う為にフレームの一部に振動吸収特性の高いカーボンを使っているという訳なのであります。

 材料工学的に考えますと、異なる材料の接合には十分な注意が必要です。伸縮性能や振動吸収特性、温度や紫外線による劣化の度合いが異なる物質同士を繋げようという訳ですから、あらゆるストレスはこの接合部に集中してしまう事になります。特に金属とカーボンの接合にはボルトやナット等のネジが使えず接着剤を用いる事が多いので、耐用年数はガクっと落ちる事は想像に難くありますまい。

 なんでこんな話をしているかと申しますと、実は私は新しい自転車が欲しくてたまらないからなのであります。しかし自分自身を納得させられる理由が無いものですから中々購入に踏み切れず、そこで、耐用年数という切り口で考えてみようと思い立ったという訳であります。「耐用年数が到来したんだもん。しょうがないじゃん。安全性の為にも新しい自転車は必要な訳よ。」新しい自転車の購入に際し、これ以上説得力のある理由など有りますまい!

 ピナレロは好きであります。元々あのデザインにはグッっと来て購入に至った訳でありますからね。ところが何年か乗っておりますと、不満も出てくるのでありますよ。ズバリ、ステムベアリングの特殊性が気に入らないのであります。自転車はセルフステアを利用して曲がる乗り物ですから、舵のスムーズな動きは絶対の条件です。ガタがなくそれでいて動きが渋くならないように、フレームとフロントフォークの接合には上下2カ所のベアリングが使われています。この構造は自転車のみならずオートバイでも同様で、いわば二輪車に共通する構造なのであります。このベアリングは、舵のスムーズさを確保すると同時に、フロントへの全荷重を支えなければならないという、かなり過酷な役割を担っています。

 多くのメーカー間で、このベアリングの互換性が確保されています。そもそも各自転車メーカーも、ベアリングから自社生産している所は稀で、故に互換が確保されるのは必然でもある訳です。必要とされる性能や前提となる条件もメーカーごとに違ったりはしませんしね。ところがそういった汎用化の流れの中にあって、ピナレロFP2は他社と互換の無い、特殊なベアリングを採用しているのであります。

 ベアリングには分解整備を前提としたボールベアリングと、使い捨てを前提としたシールドベアリングが有ります。例えば私のホイールにはボールベアリングが採用されています。細かく玉当たりの調整を行わねばならない代わりに、自由に分解し、グリスを入れ替える事が出来ます。ベアリングは水を嫌います。特にボールベアリングは水に弱い。弱い代わりに、駆動部に水が入ってしまったら、ボールベアリングは分解して新しいグリスに入れ替える事が出来るのです。整備好きには堪らない部品であります。

 一般的にステムベアリングはシールドベアリングが採用されています。ステムは構造的にもっとも水が浸入しやすい位置のベアリングだからです。全てのユーザが頻繁にグリスの入れ替えを行なえる訳ではありません。故に水の浸入しにくいシールドベアリングが使われているのです。これはFP2も同じです。ところがこのFP2専用品のシールドベアリングが1年もたたないうちにダメになってしまうのです。シールドベアリングの癖に水がすぐに浸入してしまうのです。

 ステムベアリングはハンドルの中央部にあります。自転車の乗車姿勢を考えますと顔の真下。大量の汗がここに落ちる事になります。本来水の入りにくいシールドベアリングですが、もしFP2専用品の様に、構造的な欠陥により水が入りやすいとすると、製品として致命的でありましょう。だって、ただの水でも潤滑が犯されてしまうというのに、大量に塩分を含んだ汗が浸入するとなれば、動きが悪くなるのは時間の問題だからです。

 シールドベアリングは分解出来ませんから一々新品に交換する事になります。しかも圧入してありますので、交換には専用工具が必要となります。結果として、自転車屋さんに持ち込まなければ修理出来ないのです。しかもそれが専用品とくれば、ほとんどの自転車さんには在庫が有りません。本当に不便な話なのであります。ベアリングはフレームに圧入します。この接合部の形状が特殊な為に、FP2には汎用のベアリングが使えないのです。これってちょっとした問題でしょ?ちなみにFP2のステムベアリングは約1年で駄目になります。

 次に買うロードバイクは、完成車ではなくフレームで購入し、自由に部品を構成したい。FP2は完成車で購入しましたから、気に入らない部品をリプレースメントする事で、かなりの部品が無駄になってしまいました。ま、それも楽しみの一つであった訳ですが、元々欲しい部品だけで組めるフレーム買いは魅力であります。

 同様に、より耐用年数の長い自転車を(こしら)えたいと考えています。そこで、今考えているのは、クラシカルなホリゾンタルのクロモリフレーム、クロモリフォーク、手組車輪の自転車です。今流行のグラマラスなモノコックカーボンに比べて、細いパイプの自転車は逆に格好良いではありませんか。クロモリとはクローム・モリブデン鋼の事であります。いわゆる鉄のフレーム。確かに今流行のカーボンフレームに比べれば重量が有ります。しかしツールドフランスに出ようという訳でもなく、重量の差など僅かなもの。それよりも汎用性と耐久性と、そして自転車としての格好良さを重視しようという訳であります。

 勿論、すぐに買ったりはしません。FP2はあと数年は問題なく使えるでしょうしね。それに「何買おうかなぁ」と色々考えているいわゆる妄想タイムが楽しいのでありますよ。それにしても、次から次へと欲しいモノが出てくるのは何故でありましょうや。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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